
この記事では、こうした悩みにお答えします。
イーサリアムのEIP-1559といわれるアップグレードが2021年8月5日に行われ、イーサリアムの仕様にさまざまな変更がありました。
しかし、エンジニアリングに詳しい方や、もともとイーサリアムに深い関心を持っていた方はまだしも、理解がむずかしい内容だな、と感じたのはぼくだけではないはず…。
そこで、本記事ではイーサリアムに詳しくない人でも、なるべく理解しやすいように、ぼくなりに情報をかみくだき、アップデート内容を紹介していきます!
本記事の内容
- イーサリアムEIP-1559とは
- アップデートによる主な変更点
- 今後のアップデートの予定
目次
イーサリアムEIP-1559とは
そもそも、EIP(イー・アイ・ピー)って何なのか、がよくわからないですよね...。
EIPとは、EIP(Ethereum Improvement Protocol)の略で、イーサリアムの改善提案のことをいいます。EIP-1559は、いくつもある改善案のうち、1559という番号が振られたイーサリアムの改善案という意味です。
イーサリアムには、コミュニティネットワークが形成されていて、コミュニティのメンバーの意向を反映させ、イーサリアムブロックチェーンを変更していくことになっています。この提案が、EIPです。
EIP-1559で主な変更になること
- その①:トランザクション(取引)手数料の仕組み
- その②:ブロックサイズ(ガスリミット)の柔軟な変更
- その③:ベースフィーの燃焼(バーン)導入
が主な変更点となります。かなりざっくりとした内容になりますが、以下で詳しく説明していきます。
EIP-1559アップデートによる主な変更点
その①:トランザクション(取引)手数料の仕組み
この変更点の結論は、手数料の設定を混雑する状況に応じてユーザーが決めていた仕組みが、アルゴリズムによる仕組みに変更になったことです。
■いままでの手数料の仕組み
これまでのイーサリアムでは、ガス代の価格は、オークション形式でした。つまり、もっとも高い価格のガス代を払うと設定したユーザーが最初にトランザクションをとおしてもらいやすいわけです。
このモデルの課題は、限られたブロックサイズに対する需要が急に増える(トランザクションが集中する)と、ガス代が高騰してしまうということです。
■新しい手数料の仕組み
EIP-1559では、これまでトランザクションのガス代を分割しました。それが、ベースフィー(基本料金)、プライオリティフィー(優先料金チップ)、マックスフィー(ガスあたり最大量)です。
A:ベースフィー(基本料金)
ベースフィーとは、トランザクションがブロックに保存されるために支払うべき、最低価格のガス代のことです。この金額は変動します。
B:プライオリティフィー(優先料金チップ)
プライオリティフィーとは、ユーザーがトランザクションを通してもらうためにマイナーに支払うチップの役割をするガス代です。ユーザー自身が設定します。
C:マックスフィー(取引あたりの最大ガス量)
ユーザーが1回のトランザクションに支払ってもいいと考えて設定するMAX金額のガス代です。ユーザー自身が設定します。
以上のA、B、Cが新たに設定されることになりました。
原則は、C<(A+B)の場合にだけ、トランザクションが有効として処理されます。基本料金以下ではトランザクションは通せなくなっています。多めに支払ってしまった場合、ガス代の返金がされます。
具体例です。
イーサリアムのプロトコル(スマートコントラクトによる仕組み)が、100Gwei(Gwei:グウェイはイーサリアムのガス代の単位)のガス代を提示してきたとします。自分は80Gweiしか払いたくないとします。
EIP-1559であれば、自分は100Gweiをマックスフィーとして設定し、75ベースフィーと5プライオリティフィー支払うようにMetaMaskなどで設定してトランザクションを100Gweiで通します。
その結果、20Gweiが自分に返金され、トランザクションは実質的に80Gweiで処理された、ということになります。
(チップ5Gweiでマイナーが処理してくれるかまではわかりませんが…)

https://thedailygwei.substack.com/p/this-is-eip-1559-the-daily-gwei-300より引用
上記の図をご覧いただくとわかりやすいです。これまでのトランザクションが左です。
右の方ではベースフィーが15でプライオリティフィーが5でも、トランザクションが通ります。そして、返金が10あるので結果的にガス代が低く押さえられるという仕組みになっています。
その②:ブロックサイズ(ガスリミット)の柔軟な変更
ブロックサイズとは、ブロックチェーンのひとつのブロックにどれくらいの容量が入るかのこと、と紹介させていただきました。
たとえば、ビットコインでは、ブロックサイズは1MBとされています。10分に1回ブロックが作られるので、1MBを超える取引情報(トランザクション)は、次のブロックの生成まで待機することになります。これが、待ち時間の発生する仕組みです。
一方、EIP-1559アップデート前のイーサリアムでは、ブロックサイズに明確な上限がない代わりに、「ガスリミット」という仕組みを使って、実質的にブロックサイズを制限していました。
ガスリミットがあると、待ち時間を減らすためにガス代を高くしてマイナーに早く処理してもらうことが、巡りめぐってガス代高騰につながっていた、ということですね。
今回のEIP-1559のアップデートにより、実質的にブロックサイズを制限していたガスリミットを柔軟に変更される仕様になり、ガス代の目標容量(ターゲット)をブロックサイズの最大容量の50%程度になるようにして、上述のベースフィー(基本手数料)を上下させることができるようになりました。
かんたんにいうと、ブロックサイズに余裕がある時は、基本料金を値下げします。逆に、ブロックサイズ容量が一杯になりそうになれば、値上げします。これにより、利用可能なブロックサイズを確保することで、トランザクション待ちが減り、ガス代の高騰を抑えることにつながります。
上記の図で、具体的にみていきましょう。
(Before EIP-1559)これまでの仕組みでは、トランザクションの急激な増加によりブロックリミットに達してしまい、トランザクションを早く通したいのでガス代が高騰し、ガス代100Gweiまで上昇しています。
(After EIP-1559)EIP-1559では、一時的にブロックサイズを大きくして(ガスリミットを引き上げて)、ブロック生成の待ち時間を減らし、高い手数料を払わなくても、ブロックにデータが保存される=トランザクションが通ること、を実現します。
その③:ベースフィーの燃焼(バーン)
これまで、ユーザーに支払ったガス代は、ほとんどがマイナーに配布されるインセンティブになっていました。
しかし、新たに導入されたベースフィーは、マイナーに支払われずバーンされます。バーンされたガス代(ETH)は、流通から除外されることになります。プライオリティフィーのみがマイナーに配布される仕組みです。
ベースフィーが燃焼されると何がおこるのか、2点にまとめました。
- ポイント①:ETHがデフレ化して価格が上昇する
- ポイント②:マイナーの恣意的なガス代の引き上げを排除できる
ポイント①:ETHがデフレ化して価格が上昇する
ETHが燃焼されると、市場に流通するETHが少なくなり、実質的に希少価値があがります。その結果、イーサリアムを利用するひとが増え、トランザクションを行う人が増えると、ベースフィーが増え、ETHの価格が上昇しやすくなる、というループをつくることができます。
実際、記事執筆時点で、バーンされたETHは7,000ETH(1千3百万ドル相当、日本円でだいたい約14億円)以上となっています。実装から間もないですが、バーン量がすさまじいですよね。
ただし、これは一時的なものと考える見方もあり、ずっとこのままの燃焼量とは限らないとするリサーチャーいらっしゃいます。
Don't expect the current burn rate to cont forever:
1) not all miners have started mining 30m blocks yet, so we're not at max capacity
2) once the mempool has been cleared entirely (which should happen any moment now), blocks will become smaller and basefee will fall again— Hasu (@hasufl) August 5, 2021
こちらのサイトによると、燃焼されたプラットフォームの上位は、NFTマーケットの「OpenSea」、ついで、分散型取引所の「Uniswap V2」となっています。
ETHという資産とイーサリアムというネットワークのより良い関係性をつくることにつながる発想といわれています。つまり、ETHが価格上昇すれば、イーサリアムも拡大していくということですね。
ポイント②:マイナーによる意図的なガス代の引き上げを排除できる
これまで、ガス代により支払われるETHを得るために、マイナーは意図的にガス代を高く設定することで、トランザクションを混雑させることが可能でした。
これが想定以上の手数料の高騰を発生させており、イーサリアムの課題となっていました。
いくら払えば、トランザクションが通るのか不透明であったからこそ、ベースフィーを設定することで意図的な操作を排除・抑制できるということになります。
ただし、反面、マイナーに対するインセンティブが薄くなれば、当然トランザクションを処理するノードが減ってしまうことが考えられます。
ノードが減少すれば、少数のノードによるブロックの検証に傾くので、寡占化したノードの危険性という意味で、ブロックチェーンのセキュリティに関わる問題もはらんでいます。この点は運用の状況により、再び検討されるかもしれません。
イーサリアムの今後のアップデート予定:まとめ
以上、イーサリアムのEIP-1559をテーマに変更点をまとめてみました。
手数料モデルの変更について、色々とまとめてきましたが、EIP-1559により、これまでより手数料が必ずしも低く押さえられる訳ではないことは認識しておいた方がいいと思います。
手数料が計算される仕組みに変更がったということになり、私たちに大きな影響があることは間違いないですよね。
実施予定の5つのEIP
イーサリアムのEIP群の総称である「ロンドン」では、次のEIPが実施される予定です。
- 「EIP-1559」手数料モデルの変更
- 「EIP-3198」基本手数料のオペコード追加
- 「EIP-3529」手数料の払い戻し一部削減
- 「EIP-3541」0xEFで始まるコントラクトの拒否
- 「EIP-3554」ディフィカルティボムを2021年12月1日まで延期
この記事を読んでみて、ここに書かれている内容がなんとくなくでも、理解できるようになる情報が提供できていれば、嬉しい限りです。
EIP-1559へと進み、PoS(プルーフオブステーク)への移行についてさらに自信が持てるとブテリン氏は述べ、長期的にはイーサリアム・ネットワークの電力消費量を99%削減する布石が整った、と発言しています。

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参考記事
・This is EIP-1559 - The Daily Gwei #300
https://thedailygwei.substack.com/p/this-is-eip-1559-the-daily-gwei-300
・【解説】明日予定のイーサリアム大型アップグレード「ロンドン」で何が変わる?− あたらしい経済
https://www.neweconomy.jp/posts/140185
・イーサリアム考案者のヴィタリック氏、ロンドンHFのメリットを解説 10億円相当の手数料がバーン